2020.09.18 お知らせ

近赤外発光を利用した生体イメージングにより生きたマウスの脳内で記憶関連タンパク質BDNFの発現が増加する様子を可視化することに成功

 高崎健康福祉大学薬学部薬学科分子神経科学研究室の福地守教授の研究グループは、電気通信大学および富山大学の研究グループとの共同研究により、ホタルの発光酵素を利用して、記憶関連タンパク質であるBDNF(Brain-derived neurotrophic factor:脳由来神経栄養因子)の発現が脳内で増加する様子を生きたマウスで可視化することに成功しました。BDNFは、記憶や学習といった脳の高次機能の発現に必要不可欠なタンパク質であり、BDNF量の低下は、アルツハイマー病に代表される認知症にも関連します。本研究成果は、脳内BDNF発現変化の評価を生きたマウスで可能にするため、将来的には、脳内BDNFがどのように変化すると認知症の発症に至ってしまうのか、といった研究も可能になるかもしれません。このような研究は、認知症の新たな治療戦略構築に結びつく可能性を秘めています。

 本研究成果は、英国科学誌「Molecular Brain」に掲載されました。

【研究の背景】

 脳由来神経栄養因子(BDNF)#1)は、記憶学習などの高次の脳機能発現に必要不可欠なタンパク質です。BDNFは、脳・神経系において様々な機能を有しているため、アルツハイマー病などの神経変性疾患やうつ病などの精神疾患において、BDNF発現の低下が認められることが数多く報告されています。しかし、脳内BDNF発現が低下することがこれら脳・神経系の疾患の発症原因となるのか?それとも疾患による脳機能低下の結果として脳内BDNF発現が低下するのか?については未だ明確にされていません。

 そこで、生体脳内におけるBDNF発現変化を可視化するため、ホタルの発光酵素であるルシフェラーゼを利用した遺伝子改変マウス「BDNF-Lucマウス」を作出しました(図1)。ホタルルシフェラーゼは、天然の基質であるd-ルシフェリンと反応すると黄緑色の発光を生じます。この生物発光#2)は、生命科学研究において、様々な生命現象を可視化するために利用されています。BDNF-Lucマウスは、BDNF発現が増加するとルシフェラーゼが増加するマウスです。そのため、ルシフェリンをこのマウスに投与すれば、発光が生じますが、発光の強さはルシフェラーゼの量、すなわちBDNF発現量に依存するため、発光を検出することによりBDNF発現量を測定することが可能です。しかし、マウスなどの実験動物にルシフェリンを投与する場合、ルシフェリンは投与後、生体内に均一に分布しなければなりません。また、ホタルルシフェラーゼとd-ルシフェリンとの反応で生じる黄緑色の発光は、ヘモグロビンなどの生体分子に妨げられます。そのため、生体の深部の組織から生じた発光を体外から検出することが困難となります。以前の研究において、BDNF-Lucマウスにd-ルシフェリンを投与した結果、確かに発光は検出されました。しかし、BDNFは特に脳で高く発現しているにもかかわらず、脳の位置する部分で発光が強く検出されることはありませんでした。この原因として、先ほど述べたルシフェリンの体内分布の問題や発光の組織透過性の問題が考えられます。そこで本研究では、ホタルルシフェラーゼの人工基質を用いて、生きたまま非侵襲的に脳内BDNF発現変化を可視化できるか検討しました。

【研究の結果】

 以前の結果と一致して、BDNF-Lucマウスにd-ルシフェリンを投与すると、発光は検出されましたが、脳からの発光が強く検出されるような結果は得られませんでした(図2左)。そこで本研究では、近赤外の発光が生じるホタルルシフェラーゼの人工基質を用いて同様に解析を行いました。近赤外の発光は、ヘモグロビンなどの影響を受けにくいため、黄緑色の発光で問題となった組織透過性が改善されることが期待されます。その結果、人工基質の一つである「TokeOni(別名;アカルミネ塩酸塩)」を用いた場合、大脳領域を含む脳に由来する発光を検出することに成功しました(図2右)。この方法では、発光を妨げるマウスの黒毛を除毛するだけで脳からの発光が検出可能であり、非侵襲的な解析が可能となりました。

 次に、TokeOniを用いて脳内でBDNF発現が増加する様子を可視化可能か確認するため、脳内BDNFを増加させる薬剤の一つであるカイニン酸を用いた実験を行いました。その結果、コントロールである生理食塩水投与と比較して、カイニン酸投与後には脳の発光、特に海馬における発光が顕著に増加しました(図3A)。さらに、より生理的な条件下での脳内BDNF発現変化が可視化可能か検討するため、視覚刺激を行いました。本研究では、BDNF-Lucマウスを暗室で約1週間飼育することで眼からの光刺激を遮断した後、および暗室飼育後に1時間照明を当てることで眼からの光刺激を与えた後、それぞれにおける発光を測定しました。その結果、暗室飼育後と比較して、光を1時間当てた後では、視覚野を含む領域の発光が顕著に増加しました(図3B、黄色矢印)。

【今後の期待】

 本研究の最大の特徴は、近赤外の発光を利用することにより、生きたマウスを用いて非侵襲的に脳内BDNF発現の増加の様子を可視化できた、という点です。非侵襲的であるため、発光測定により生きたままBDNF発現変化を測定した後、同一マウスで記憶学習の評価などの行動解析が可能です。すなわち、脳内BDNFが増加(もしくは低下)した後、記憶学習がどのように変化するのか?を直接的に解析することが可能です。この方法を利用することで、将来的には、脳・神経系の疾患と脳内BDNF発現との関連性を明らかにできるかもしれません。例えば、アルツハイマー病モデルマウスと組み合わせることで、アルツハイマー病の脳内ではどのタイミングでBDNF発現が低下し、それに伴い記憶学習障害がどのように生じていくのか?を関連づけて解析することができ、得られた知見をもとに、新たな認知症治療戦略の構築に役立つかもしれません。

【公表論文について】

掲載雑誌名:Molecular Brain(モレキュラー ブレイン)

掲載論文名:Visualization of activity-regulated BDNF expression in the living mouse brain using non-invasive near-infrared bioluminescence imaging(近赤外領域の発光による非侵襲的イメージング法を用いた生体マウス脳内における神経活動依存的なBDNF発現調節の可視化)

DOI:https://doi.org/10.1186/s13041-020-00665-7

【語句説明】

#1)BDNF

Brain-derived neurotrophic factor(脳由来神経栄養因子)の略。1982年にブタの脳より単離・同定されたタンパク質であり、神経細胞の生存や分化、神経ネットワークの形成、さらには記憶や学習などの高次脳機能発現に必要不可欠な因子である。また、うつ病などの精神疾患やアルツハイマー病などの神経変性疾患においては、BDNF量が低下することが報告されており、BDNFはこれら疾患のバイオマーカー、創薬のターゲットになりうることが期待されている。

#2)生物発光

ホタルの光に代表される生物が放つ発光の総称。生命科学の領域では、ホタルルシフェラーゼが広く用いられ、生命現象の変化の測定や可視化に利用されている。発光は、酵素であるルシフェラーゼと基質であるルシフェリンが反応することで生じる。天然の基質はd-ルシフェリンであり、黄緑色の発光を生じる。近年、発光の輝度の増加、発光の波長の長波長化などを目的として、人工基質の開発が進められている。本研究で使用したTokeOniなども人工基質である。

 

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