2020.09.02 お知らせ
細胞外ATPによるマスト細胞の活性化とI型アレルギー反応増強メカニズムを解明
マスト細胞は細胞表面に結合したIgEで、外来抗原を認識するとヒスタミンなど多くのケミカルメディエーターを放出することにより生体防御の第一線で活躍する免疫細胞です。しかし、最近は花粉症や食物によるアレルギー反応などマスト細胞の過剰反応が現れて多くの人が悩まされています。本学 薬学部 薬効解析学研究室(松岡功教授主宰)の吉田一貴助教らは、東京大学、山梨大学、京都薬科大学、岡山大学との共同研究で、本来はマスト細胞の機能を刺激しないような微量な抗原に対して、マスト細胞が過剰に反応するメカニズムを明らかにしました。その実態は、細胞の中でエネルギー物質として働くATPが関与していました。ATPは様々な刺激で細胞外に放出され、特異的な受容体を刺激して我々の生理機能を調節しています。特に、かゆい部分を掻くような機械刺激で細胞外に放出されることが知られています。我々は、マウスのマスト細胞を用いて、ATPが微量な抗原の作用を増大させることを見出し、その作用点がATPを認識するP2X4受容体であることを突き止めました。実際、P2X4受容体遺伝子を持たないノックアウトマウスでは抗原に対するアレルギー反応が軽減していることを実証しました。我々はすでに、抗原に依存しないマスト細胞の活性化にもP2X4受容体が重要な役割を果たすことを見出しています(Int J Mol Sci 2019,20,5157)。近年、マスト細胞はアレルギー性疾患のみならず、炎症性腸疾患や強皮症など様々な非アレルギー性炎症疾患の病態に関与することが示唆されています。以上の結果から、P2X4受容体阻害薬を開発することで花粉症などのアレルギー性疾患のみならずマスト細胞が関与する炎症性疾患の新たな治療手段になることが期待されます(図参照)。本研究成果は、The Journal of Immunologyに掲載されました。

【論文情報】
論文タイトル:
Extracellular ATP Augments Antigen-Induced Murine Mast Cell Degranulation and Allergic Responses via P2X4 Receptor Activation.
著者
高崎健大薬学:Yoshida K (筆頭著者), Ito M, Sato N, Obayashi K、Matsuoka I (責任著者)
東京大学大学院医学系研究科 生体物理医学専攻 医用生体工学講座 システム生理学:Yamamoto K
山梨大学大学院総合研究部 医学域 薬理学講座:Koizumi S
京都薬科大学 病態薬科学系 薬理学分野:Tanaka S
岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科: Furuta K
掲載情報
雑誌 :J Immunol. 2020 Jun 15;204(12):3077-3085. doi: 10.4049/jimmunol.1900954.