2017.12.13

グルコース不足による細胞増殖抑制に、ヒストン脱メチル化酵素KDM2AによるリボソームRNA転写抑制が関係する

薬学部 遺伝子機能制御学研究室 教授 常岡 誠、講師 岡本健吾、助教 田中祐司

盛んに増殖する癌細胞では、細胞の部品となるタンパク質が大量に合成(翻訳)される必要があります。タンパク質はリボソームと呼ばれる翻訳装置によって合成されるので、大量のタンパク質を合成するには大量のリボソームが必要となります。
リボソームは巨大な生物マシーンで、つくるためにはたくさんの材料が使われます。この材料は細胞外からの栄養物質に由来するので、増えるために癌細胞は周りの栄養物質をたくさん取り込んでリボソームを大量に合成しなければなりません。
実際、癌細胞は最も重要な栄養物質であるグルコースを大量に取り込んで消費します。逆に言うと、周りの栄養物質が減ると材料不足でリボソーム合成が減ってしまい、癌細胞は増殖できなくなると考えられます。
ところで、リボソーム合成の第1段階はリボソームRNA (rRNA) といわれる特殊なRNAの合成(転写)です。この過程はリボソーム合成調節の重要なステップとなっており、癌細胞ではrRNA転写が増加し、リボソーム合成が亢進しています。しかし、rRNA転写調節の仕組みはまだよくわかっていません。
私たちは近年この仕組みに関して興味深いことを発見しました。癌細胞を栄養不足の状態におくと、rRNAの転写量を調節する遺伝子の部分(rRNA遺伝子プロモーター)で、“KDM2A”という特殊な酵素(ヒストン脱メチル化酵素2A)が活性化され、rRNA転写が抑制されるというものです(EMBO J 2010)。
しかしKDM2A活性化の仕組みやrRNA転写抑制の生理的な意味合いはよく理解できていませんでした。
そこで今回、栄養不足の状態について詳しく調べました。
その結果、グルコースが不足することによりエネルギーセンサーAMP-activated protein kinase (AMPK) が活性化され、それがKDM2A活性を誘導することが明らかとなりました。乳癌組織でKDM2Aが存在しているかを観察したところ、難治性の乳癌を含むすべてのグレードの乳癌組織でKDM2Aが検出されました(図)。
難治性乳癌組織などから樹立された乳癌細胞株をグルコース不足の条件で培養するとrRNA転写と細胞増殖が減りましたが、KDM2A活性を抑えるとグルコース不足による両者の減少が見られなくなりました。
これらの結果から、KDM2Aはグルコース不足に応答してAMPKを介して活性化され、rRNA転写及び細胞増殖を抑えることがわかりました。以上は、栄養不足の状態でのリボソーム合成の減少には、材料の枯渇による消極的な機構だけではなく、KDM2A活性化による積極的なrRNA転写抑制機構が関係することを示しています。
私たちは、今回明らかになったrRNA転写抑制機構が新しい癌細胞増殖抑制法開発に利用できるのではと期待しています。

20171212-薬-常岡トピックス図1

図1 乳癌組織でのKDM2Aの検出。茶色のシグナルがKDM2Aを示している。KDM2Aは癌細胞の核中に観察された。

20171212-薬-常岡トピックス図2

図2 難治性乳癌組織から樹立された細胞株でのKDM2Aの検出。核小体マーカーのヌクレオリンシグナル(緑)とKDM2Aシグナル(赤)はよく重なった。rRNA転写は核小体で起こる。KDM2ArRNA転写が起こる場所に集まっていることが分かった。

雑誌名: Molecular and Cellular Biology
発表年月日:2015年9月28日
論文名:Mild Glucose Starvation Induces KDM2A-Mediated H3K36me2 Demethylation through AMPK To Reduce rRNA Transcription and Cell Proliferation.
著者:Tanaka Y, Yano H, Ogasawara S, Yoshioka S, Imamura H, Okamoto K, and Tsuneoka M.

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